歯の神経の治療はなぜ長引いてしまうのか

2021年05月29日

歯医者で歯髄(神経)をとったのに、腫れたり痛んだり何カ月も通院したり……数年後、根の先に膿があるから根の治療をしましょう」と再治療、挙句の果てにとうとう抜歯となった。そんな経験をされたことはありませんか?

「むし歯を作ったのは私だから仕方ない」と歯医者の言いなりになっている方は、よく調べましょう。言われるままにしておくと、あなたの歯の寿命にかかわることがあります。歯の基本治療の一つである根管治療は、歯を健康に保つうえでとても重要です。

根管治療に通院回数がかかるのはどうしてでしょうか?これはまず、根管治療自体が大変難しいものだからです。口の中は舌や頬(ほほ)粘膜が存在し、一方向からしか見ることができないため視野が狭く奥へ行くほど暗いうえに、唾液が常に出てきています。その上、歯そのものが小さく、その中にある歯髄(神経)はもっと見にくくなっています。

また、根は大なり小なり曲がりくねっているのが普通なのです。車でたとえるなら、「狭くてカーブが多く相当走りにくい道(首都高を走るイメージです)」といったところでしょうか。このため、歯の上から根の先まで治療器具を入れて到達させるには、高度な技術と時間が必要となります。

こうした難しい理由が揃っているのにもかかわらず、保険点数では根管治療は世界標準レベルから見ても大変低く評価されています。そのため保険診療では、1回の根管治療にかける十分な時間をとることや、きちんとした治療を望んだりするのは厳しいというのが現状といえるのではないでしょうか。本当に、歯科医師が心を痛める治療の1つであると思います。

根管治療(神経の治療)の専門家「歯内療法専門医」

歯医者といえば虫歯や歯周病の治療がすぐに思い浮かぶかもしれませんが、その他にも医科と同じようにいろいろな専門分野があって、診療科も細かく分かれていることをご存知でしょうか。

たとえば眼科の医師に胃の痛みを訴えても「専門外だからわからない」といわれます。「それは当たり前でしょう」と思われるかもしれませんが、歯科でも同じようなことが起こりえます。歯科医師は法律的にはすべての治療を行うことができるとはいえ、ひとりですべての分野の治療を最高レベルで行える歯科医師というのはまずいません。

根管治療は専門用語で「歯内療法」といいますが、この歯内療法には正式な「歯内療法学会」というものが存在し、学会が認めた「歯内療法専門医」という資格があります。つまり根管治療(根の治療)にもプロフェッショナルが存在します。

ちなみに「歯内療法専門医」の取得には、

まず一般開業医は学会に7年以上所属してはじめて専門医の資格審査を受ける権利を得ることができます。
申請の準備段階では・ 学術大会への参加・ 学術大会での発表・ 学会誌への発表など必要単位を15点以上修得しなければなりません。
そして、準備段階で最も重要な要件がラバーダムを使用した5症例の、術前・術中・術後3か月後・6か月後の症例報告を、X線デンタル写真とプロトコールを用意すること

これらの準備がそろって始めて、申請をすることができるようになります。
書類を提出、書類審査通過後、対面審査(口頭質問)、筆記診査(一時間の記述試験)を経て、ようやく合否が出されるのです。

このように資格をとる過程には大変な手間暇がかかります。
それにもめげずに日々の診療と両立しながら「歯内療法専門医」を目指すのです。そこには、よほどの考えやこだわりがないと出来ないと思います。だからこそ、根管治療は歯内療法専門医にお任せすることが望ましいのです。

実際、専門医が治療を行っている海外では根管治療(根の治療)の成功率は、日本に比べ高いのが現状です。

 

しかし残念ながら、歯内療法専門医のほとんどは保険治療をしていません。前述のように根管治療へ最善を尽くすには、集中できる時間とそのための環境、さまざまな専門器具などへの投資が必要となるため、健康保険では到底賄えきれないからです。治療を依頼するには、一般的に1歯10万円の治療費は覚悟しておくべきでしょう。

数いる歯内療法専門医の中から選ぶ方法とは?

根管治療を歯内療法専門医に診てもらうとすれば、保険適用内の治療に比べて費用がかさんでしまいます。だからこそ、歯科医師の選び方には慎重になりたいところです。
しかし、残念ながら技術は外から見ることはできません。では、どんな基準で選べばよいのか。選び方のポイントとして、たとえば、

1.設備と環境はそろっているか

外科医にとって手術室(個室)や最新の設備機器の環境が整っていることは必須条件だと思います。歯科医院に根管治療をきちんとこなせる設備や環境があるかどうかは重要なポイントといえるでしょう。たとえば、精密な根管治療を行う為には歯科用実態顕微鏡(マイクロスコープ)や歯科用CTが必要になります。ほかにはラバーダム、適切な根管拡大器具、根管洗浄システム、超音波治療器、最適な根管充填材料の種類があるかも重要な点になってきます。また、根管治療は細菌感染を防ぐことが大切ですので、院内の滅菌消毒がしっかりできているかもポイントとなります。患者さんとしては、静寂を保てる個室環境があるかも大いに気になるところかもしれません。

2.「歯」だけではなく、あなたを見てくれる歯科医であるか

患者さんと歯科医師との信頼関係はとても大切です。根管治療の技術だけではなく、あなたの心や背景に寄り添った上で、治療提案と最善の技術を尽くしてくれる歯科医師が望ましいでしょう。あなたが納得して治療に臨めるよう、時間をかけて話をきいてくれる歯科医師を選んでください。まずはカウンセリングやセカンドオピニオンなどで色々な先生方とお話ししてみることをおすすめします。

以上を参考にしてみてはいかがでしょう。

 

札幌歯科 院長  坂本 渉  Sho Sakamoto

歯学博士
米国ロマリンダ大学インプラント科卒業
北海道医療大学歯学部歯周歯内治療学分野非常勤講師

日本歯周病学会 認定医
日本歯内療法学会 専門医
日本歯科保存学会 認定医
アメリカインプラント学会 認定医
ジャパンオーラルヘルス学会 予防歯科認定医