最新の歯内療法と日本の歯内療法(根管治療・根の治療)の現状

2021年05月30日

今週の木曜日(6月3日)はいよいよ歯学部の学生に授業をする日です。

今年度から、学生実習の講義で最新の歯内療法についてを担当させて頂くことになりました。

歯内療法学とは、歯の根の治療(根管治療)に関する分野の学問です。

学生達に少しでも興味を持ってもらえるように写真や動画多めの構成でスライド用意しました。

前任の先生にも今年度から担当させて頂くことを報告し、今まで学生に何を一番大切に伝えてきたのかも伺えたので、
私自身も非常に有意義に準備させて頂きました。

近年の医療の発展はすばらしいと思いますが、最新=最善ではない、医療の概念は変わらないので何が良くて何がダメなのかを自分で考えられるように、を上手く伝えていければと思います。

 

理想と現実‥日本の臨床現場の歯内療法・根管治療(根の治療・歯の神経の治療)の現状

現在の日本における歯科治療は、諸外国に比べて質の良い治療が、大半はできているとは言えない状況にあります。残念ながら、日本の現状では根管治療(根の治療・歯の神経の治療)でさえ成功率30-50%と報告されています。

しかし、それには次のような理由があげられます。

・日本の安価な歯科治療

日本は、歯科先進国と比べて格段に安価で治療することが可能です。
根管治療(根の治療・歯の神経の治療)においては、日本が1本約9,000円ほど(さらに保険診療患者負担分はもっと低い)で済むのに対し、例えばアメリカ合衆国ではおよそ10万円ほどかかってしまうのです。

ではなぜ日本の歯科治療は安価におさまるのでしょうか?
その理由は、日本の歯科治療は「健康保険制度」による治療が可能だからです。

保険治療では「診療報酬の少なさ」「使用できる材料」「ルールによる制約」などによる限界があります。また、患者さんも多くが「健康保険制度」の金額設定に慣れてしまい、保険治療を望む場合が大半をしめているように思います。
いくら歯科医師が質の良い治療を実施したくても、現状のままでは赤字覚悟で診療することになってしまうのです。

そのため、その場しのぎの主訴解決にしかならず、結果的に歯を失うことにお金を使ったことになるのです。

さらにこの健康保険により、どんな歯科医院でも根管治療(根の治療・歯の神経の治療)を受けることができてしまいます。
根管治療(根の治療・歯の神経の治療)は歯科治療の中で最も時間と手間がかかる治療であるのに対し、健康保険における根管治療では年々診療報酬まで下がっているのが現状です。
残念ながら、適正な診療をするための器具、薬剤、診療時間、その他のコストが考慮されていないのです。

保険治療によって安価に治療できてしまうことで、そもそも患者さん自身の歯や口腔内への価値観が向上しないという問題もおきてしまいます。
また日本とは逆に、歯科先進国の多くは自費治療になるため、なるべく治療しないで済むよう、メインテナンスへの意識が高いのです。

 

ですので、私が学生に講義を行う最新のマテリアルを使用した理想的な治療は、全て自由診療(保険外診療)になるのです。

 

・保険治療と自由診療(保険外診療)の根管治療の違い

保険治療の根管治療は一般的に「肉眼」または「拡大鏡」で行われます。ただ、それでは細かい部分をすべて確認しながら完璧に清掃することは難しく、職人的な「経験」や「勘」などに頼った治療となっていました。時には根尖病変ができてしまって、再治療を余儀なくされたり、抜歯となってしまうこともあります。

根管の形態は非常に複雑にできており、根管治療は非常に精密な治療です。世界的権威の歯科医であっても、100%完璧な治療を行うのは非常に困難な治療です。

 

歯科用マイクロスコープ(自由診療)

マイクロスコープによって、これまで「手探り」で行っていた治療が「確実に目で見る治療」に変わりました。

歯科用マイクロスコープにより、高倍率で直接見ながらの治療が可能になり、より確実で精度の高い治療が行えるようになりました。特に最近では、できるだけ削らずに歯を残す治療が主流です。

顕微鏡治療は、そのような時代を象徴するような歯科治療なのです。しかし、歯科用マイクロスコープは高価な機器であるため、国内の歯科医院ではあまり普及していない現状があります。

※2017年 歯科医院普及率 10% 程度

 

超音波器具による根管治療

細い根管内の汚れなどを、超音波の振動を加えながら除去します。

歯を削る器具を使用すると、削りすぎてしまい、その結果、歯が薄くなって割れやすくなってしまうため、超音波器具での根管治療は非常に歯にやさしい方法です。

超音波器具とともに使用する薬液は、バクテリアを殺菌する能力が高いものを使用します。

※超音波器具による根管治療はマイクロスコープを併用することでその効果を十分に発揮します。

 

ラバーダム防湿(自由診療の場合は100%)

根管治療では、歯の根の中を完全に無菌化することで治療します。ただ、唾液には細菌が存在しており、治療を行いながら歯の根の中を無菌に保つことは極めて難しくなってきます。そこで、治療する部位以外を「ラバーダム」というゴムの膜で覆ってしまい、治療部位のみを完全に分けた状態での治療が考案されています。

この「ラバーダム防湿」は、以前から行われており、世界的にみると根管治療を行う際、ほとんどのケースに使用されています。

※ラバーダムの装着には時間と手間がかかるため、日本の保険診療では約10%程度しか行われていません。

 

歯科用CTによる診査と診断

歯の根っこである「根管」は、複雑に枝分かれしたり、曲がりくねっています。このように複雑な形態をした根管の隅々まで清掃する必要があるのですが、従来のレントゲン画像だけでは病変や枝分かれした部分などを確実に把握することは非常に難しくなります。

CTによる立体的な3次元の画像を確認することで、レントゲンだけでは発見することのできない病変や枝分かれした部分などを確認することができることがあります。

※歯科用CTの普及率は20%程度といわれています。
※保険診療の場合は、国が決めたルールに沿ってしか使用出来ない為、撮影が必要でも出来ない場合が多々あります。

 

根管治療専用道具【手用ファイル】 {自由診療ではディスポ(使い捨て)}

根管治療には根管内を掃除する道具が必要ですが、その代表がファイル(やすり状器)です。
ファイルは先端径が0.6mmから1.40mmまでサイズがあります。根管がいかに狭いところかおわかりでしょう。

保険診療の場合は、消毒・滅菌をして使い回すことがほとんどです。なぜなら、手用ファイル 150-360円/本の物を何本も使用するのに、根管治療の治療費(根管貼薬)は1回当たり300-540円だからです。

※自由診療では、1度でも根管の中に入った物は再利用することはありません。ですから、治療費も保険診療に比べ高価になるわけです。

 

根管治療(根の治療・歯の神経の治療)は最初の治療がもっとも肝心です。

『歯がズキズキして寝れない』『冷たいもの・熱いものと食べた時にしみる』場合は、手遅れになる前に歯内療法専門医歯内療法専門医院にご相談下さい。

 

日本歯周病学会 認定医
日本歯内療法学会 専門医
日本歯科保存学会 認定医
アメリカインプラント学会 認定医
ジャパンオーラルヘルス学会 予防歯科認定医

米国ロマリンダ大学インプラント科 卒業
北海道医療大学 歯学部 歯周歯内治療学分野 非常勤講師
歯学博士

札幌歯科 院長 坂本 渉