タバコがインプラント治療に与える影響

2021年06月20日

タバコはインプラント治療にはどのような影響を与えると考えられるのでしょうか。

インプラント治療後のリスクとして、インプラント周囲炎を引き起こす可能性が指摘されています。

インプラント周囲炎とは、インプラントの周りの組織が炎症を起こすことで骨が溶けていき、最悪の場合インプラントが抜け落ちてしまう病気です。

インプラントが抜け落ちてしまうリスクは喫煙者の方が非喫煙者より2倍ほど高いと言われていますが、その原因の多くがインプラント周囲炎です。

喫煙者にインプラントの脱落が多い要因として考えられるのが、タバコに含まれるニコチンとタールです。

中でもニコチンはヒトの免疫力を低下させる性質があり、歯肉のように直接触れられる組織は影響を受けやすいと考えられます。

歯肉の免疫力が低下すると、インプラントと骨がくっつきにくくなるなど、インプラントの脱落を引き起こす状態になってしまいます。

さらに、喫煙によって唾液が減少し、インプラント周囲炎を引き起こす細菌を抑制しにくくなるという問題もあります。

歯肉に悪影響を及ぼす要因としてほかに挙げられるのが、喫煙による血管の収縮です。

血管が細くなると栄養が歯肉や骨にしっかりと届かず、歯肉が酸欠状態に。インプラントは骨や歯肉に支えられることで機能します。

喫煙習慣は歯肉や骨の健康を妨げ、インプラントの脱落を引き起こす可能性が考えられています。

 

インプラント治療をする方・した方は電子タバコ・加熱式タバコも控えたほうがよい?

それでは、「紙巻タバコより体に優しい」という声もある電子タバコや加熱式タバコであれば、インプラント治療中に吸っても問題ないのでしょうか。

まず、「紙巻タバコ」、「電子タバコ」、「加熱式タバコ」にどのような特徴があるのか改めて見ていきましょう。

紙巻たばこは、葉タバコを刻み乾燥させた「刻(きざみ)」と、煙をろ過する「フィルター」、それらを包む「巻紙(まきし)」「チップペーパー」で構成されています。この刻を加熱することにより、それに含まれている香料などが独特の香りや味わいを出します。一方で、タールやニコチンといった体に悪影響があるとされる物質がタバコの煙に含まれるため、健康面で懸念されています。

電子タバコと加熱式タバコは、外見はどちらも似ていますが、製品の構成や機能はまったく異なります。

大きなポイントとして、タバコの葉の使用が挙げられます。加熱式タバコがタバコの葉を加熱するのに対し、電子タバコはタバコの葉を使用していません。カートリッジの中に入っている液体を電気加熱することで蒸気を発生させる、という仕組みになっています。こうした構造により、電子タバコにはニコチンが含まれていないほか、タバコの葉を使用していないため日本国内ではタバコ製品としては販売されていません。ただし、海外の電子タバコはニコチンが含まれたり、タバコ製品として扱っている国もあります。

加熱式タバコは、紙巻タバコ同様にタバコの葉を使用してはいますが、紙巻タバコが800度もの高温でタバコの葉を燃焼させて煙を発生させるのに対し、加熱式タバコは葉を300度以下で加熱させることにより、蒸気を発生させます。これにより、有害物質の発生を抑えているという声もあります。

このように、電子タバコと加熱式タバコは、そもそも「タバコ」であるかどうかという点で大きく異なりますが、どちらも煙を出さず、紙巻タバコよりも体への影響が少ないのではないかという声もあります。

しかし、例えば加熱式タバコは、すべての有害物質が除去されているわけではありません。加熱式タバコには、タバコを吸いたくなる要因とされるニコチンが含まれており、このニコチンによって血管が収縮されます。血管への悪影響はインプラントと骨の結合に問題を起こすおそれがあるので、注意が必要です。

インプラントを埋める時に骨の量が十分にない場合は、骨を作るための手術をすることがあります。しかし、喫煙習慣がある方は、骨を作るための手術ができないと判断されることがあります。インプラントを5~10年使っていくというスパンで考えると、歯肉や骨が痩せやすくなる喫煙は、大きなリスクがあると考えられているためです。

また、電子タバコも、安全性は不明です。

インプラント治療を考えている方は、電子タバコや加熱式タバコも、紙巻タバコ同様に控えるべきだと考えられます。

インプラントは高額な治療となるだけでなく、長い付き合いとなります。インプラントの寿命を伸ばして食生活を豊かにするためにも、禁煙を考えてみてはいかがでしょうか。

 

札幌歯科  院長  坂本 渉  Sho Sakamoto
歯学博士
米国ロマリンダ大学インプラント科卒業
北海道医療大学歯学部歯周歯内治療学分野非常勤講師

日本歯周病学会 認定医
日本歯内療法学会 専門医
日本歯科保存学会 認定医
アメリカインプラント学会 認定医
ジャパンオーラルヘルス学会 予防歯科認定医